大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和40年(オ)441号 判決 1966年3月22日

上告人(原告・被控訴人) 山根時奥

被上告人(被告・控訴人) 長田清明

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人千田専治郎の上告理由について

所論は要するに、本件手形振出人の肩書に記載された明石市には、訴外新日本化学肥料株式会社の本店登記はなされていないから、訴外会社は架空会社であり、手形法八条の類推により手形署名者たる被上告人において振出人としての責に任ずべきであると主張する。

しかしながら、会社は本店所在地において設立の登記をすることによって成立し、法律上会社として実在するにいたるのであって、手形振出人欄の右会社の肩書に登記簿上の本店所在地と異なる肩書地を記載したからといって、右記載により会社の法律上の実在性が左右され、その存在が否定されなければならない理由はない。(最高裁判所昭和三五年(オ)第二二九号、同三六年一月二四日判決参照)。

原審の確定するところによれば、本件手形の振出人欄には新日本化学肥料株式会社代表取締役長田清明と記載されており、右会社は被上告人長田清明を代表取締役とし、東京都新宿区四谷一丁目二二番地に本店を有する会社として登記され、登記簿上現在存続する会社であるから、本件手形は被上告人が右実在せる新日本化学肥料株式会社の代表取締役たる資格で振り出したものと認めるのが相当であるというのである。よって、原審が、本件において確定した事実関係に基づき、たまたま振出人の肩書地が明石市大久保町江井島三五九と記載され、登記簿上の本店所在地と同一でないからといって、振出人たる新日本化学肥料株式会社が存在しないものということはできないとの趣旨のもとに、被上告人の振出人としての責任を否定したのは正当である。なお、所論当事者の変更を許さないとした原審の処置はなんら違法ではなく、原判決に所論の違法は存しない。

よって、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 横田正俊 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎)

上告理由

上告代理人千田専治郎の上告理由

一、原審判決は判決に影響を及ぼすこと明かなる法令違背を以て上告理由とする。即ち原審判決理由に依ると「右手形の振出人の記載である新日本化学肥料株式会社の肩書に住所として明石市大久保町江井島三五九と附記してあることは当事者間に争がなく、手形の振出人の肩書に住所として地名を附記すは通常の場合振出人の住所または本店所在地(会社の場合)を表わす趣旨とみるべきであって、特段の事情の認められない右手形についても前記肩書地名は前記会社の本店所在地とする新日本化学肥料株式会社という会社の登記がないことは控訴人も明かに争わないところである」と認めながら訴訟進行中殊に控訴審の口頭弁論において始めて提出せられた、乙第一号証記載の東京都新宿区四谷一丁目二二番地に本店所在地として登載せられてある同一商号の会社が振出したものと認めるというのであって、この認定についてご庁の判決を摘示せられておる。加えて手形振出行為につき手形法上振出人の住所は必要的記載事項でないから本店所在地以外の土地を肩書地に附記したからといって、それが他人を表示したものとはいえないと判示せられたのである。

<理由の二は略>

三、しかるに原審裁判所は手形法上人の住所を記載することは手形要件でないと判示せられたのであるが、如何にも住所の記載は手形法第一条、同七五条に依って要件でないが、手形面において、支払地の記載なき手形は手形法第二条一項三号に、支払人ノ名称ニ附記シタル地ハ特別ノ表示ナキ限リ支払地ニシテ且支払人ノ住所地タルモノト看做ス」との規定が存し振出地の記載なき手形についても手形法第七六条三号四号に同一規定が存す。

四、…以上略…手形法上住所の記載は要件にあらずとするも手形法以外の諸法規に従って手形面に記載せられた振出人なり裏書人の肩書に附記せられたる住所は、その振出人、裏書人の通常住所と看做し、本件手形の如く会社が新日本化学肥料株式会社と名記しこの会社が振出した手形であることの権限を証明する代表取締役名の記名捺印ある以上これに附記せられたる住所即ち附記住所を本店所在地と看做し、その地に登記がなされていないとすれば、本件手形表示の兵庫県下明石市に本店を有する会社として設立せられた架空会社と看做し、東京都に設立登記せられ同一商号の会社は別個の会社であると解し得ることは前叙住所に関する諸法規並に照し解し得べく且つ商法第一九条、同二〇条の規定からして斯く解し得べきであるし、又民法第一条全項及び禁反言則からして右解するのが当然である。

しかるに原審判決は斯る規定の存するに拘らず上告人の請求を棄却したるは法の解釈を誤りたる違法存しその違法は判決に影響を及ぼすものとする。

なお訴状中当事者訂正の適否についての原審摘示判断につき理由書提出期間内に提出する。 以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例